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目次
序章.
隣の席から噂話が聞こえる。
「新入り、知ってるか?アークの女帝を。」
「知らないです。何ですかアークの女帝って?」
「最近の傭兵界隈じゃ持ちきりの話さ。何でもそいつは…」
噂話を聞き流して、グラスの中身を飲み干す。
「アークの女帝…か…。」
空になったグラスを握りしめる。
「許さない…奴だけは!!」
1章.『混濁』

「ここは…どこだ…?…つぅ…頭が痛い…。」
コックピットのモニター画面から見えるのは、見慣れぬ建造物が浮遊?している空。
頭痛に耐えながら横を向くイツァム・ナー。

瓦礫の山が縦に映っている状態から、愛機『プロトエグゾス』が倒れている事を理解する。
「そうか…。私はあの時、アイツにやられて…。」
真紅の機体と対戦以降…無敗だった自分が誇りだった。

アリーナでも、ずっと1位だった…。
だが…アイツとの対戦で…初めての負けが頭を過ぎる。
負けると悟った瞬間…敗北が認められず、死を選び…特攻から自爆をしかけようとした…惨めな自分を思い出す。
同時にその瞬間、おかしな光に包まれてしまった事も…。
「そこから…思い出せない…か。」
全身の痛みに意識が遠のいて行く…。
どこからか声がする…。
あれから、どれくらいの時間が経っただろうか?
子供の…声?
「ね………ん…。ね…ちゃん…!…姉ちゃん!!生きてる!?」
「ハッ!!」
鮮明に聞こえた声。
揺すられている自分。

開いたコックピットの扉から射す、太陽の光が眩しい。
そして、太陽を背に自分を揺すり起こした声の主が、男の子のものであったと理解する。
12、3歳くらいだろうか。
私が倒れ込んでいる座席のシートベルトを外す少年は、顔も服も汚れていて、ボロボロの酷い格好をしている。
「良かった!生きてる!!姉ちゃん、大丈夫?」
どうやら心配をしてくれているみたいだ。
「き…君は…?」
かろうじて出せた声に、少年が優しく答える。
「オレはルージュ。生きてて良かった。ちょっと水を持ってくるね…って、姉ちゃん!?」
今度は、人の温もりに触れた安心感で、再び眠りにつく。
2章.『失意』

パチッ……。パチッ……。
焚火の音と、眠っていた自分にかけてくれた布の暖かさに包まれて目覚める。
「良かった、目が覚めたんだね。」
「ああ…。確か…ルー……ジュくんだったね…?…助かったよ。…ありがとう。」
「いいよ、気にしなくて。助かって良かった。」
焚火に薪をくべながら、ボロボロの恰好のままでルージュが微笑む。
「姉ちゃんは…名前なんて言うの?」
「…。イツァム…ナー。」
「そっか、ナーさんっていうんだ。…ナー姉ちゃんって呼んでいいかな?」
小さく笑うルージュ。
命の恩人の…あどけない小さな願望に、私も小さく笑みを浮かべ、こくりと頷く。
「オレの事はさ、『ルー』って呼んでよ。さっき…そう呼ばれて嬉しかったからさ…。家族にもそう呼ばれてたし…。」
焚火の方へ視線を落とすルージュ。
小さく笑みを浮かべながら焚火を見つめる眼差しは、どこか陰りを感じる。
そんな横顔を元気づけるかのように、小さく笑みを浮かべて返事をする。
「ああ…分かったよ、ルー。」
再びこちらを向くルー。表情に明るさが戻る。
「ありがとう!」
「それにしても驚いたよ!珍しい機体を見つけたと思ったら…ナー姉ちゃんが倒れてるし。」
その言葉に、状況確認を思い出す。
「ここは…?」
辺りを見回す。どうやら半壊した廃墟ビルの中のようだ。周りに人の気配は感じない。

「ここはベリウス南部にある汚染市街の廃ビルの中だよ。驚いたかい?」
地名が分からない。
「いや、そんな事は…。ルーは今…一人?」
「うん、一人だよ。…軍の…戦争の爆風のせいで…父ちゃんも母ちゃんも妹も…死んじゃったからね。」
不用意な質問でつらい話をさせてしまった事を後悔する。
「そうか…。すまない…。」
申し訳なさを感じながらも、現状把握の為に意を決して質問する。
「ここで…何をして…?」
ルーが険しい表情を外へ向ける。
「軍の奴らに見つかったら…強制収容所送りだからね…。オレは軍に復讐する為に、ここで隠れて機体を作りながら生活してるんだ。…水場はすぐそこにあるしね。」

ルーが外の方へ指をさす。その先にあるのは…瓦礫まみれの地面に溜まった泥水の大きな水たまり。
それを見ただけで少年の生活の過酷さと、復讐への悲壮な決意が感じられる…。返す言葉が見つからない。
今度は、ルーが意を決したように質問する。
「ナー姉ちゃんはさ…パイロットなんだろ?」

「機体のエンブレム見たよ!強いんだろ?」
エンブレムの文字…『I don’t know defeat I don’t know fall therefore I’m No.1(私は敗北を知らない。私は転落を知らない。ゆえに私がNo.1だ。)』を思い出す。
「フッ…今となっては…滑稽だな。」
心の中でそう皮肉めいて呟いていると、ルージュが身を乗り出して畳みかける。
「なぁ!機体はオレが直すから…オレを…鍛えて強くしてくれないか?お願いだよ!!」
両手を掴んで懇願するルー。
その切実な眼差しに耐えきれず、焚火の方へと視界を落とす。
「いや…。私はもう…。」
自信を無くした様子を見て、掴んでいた両手を離し…ルーは何も言わず座って焚火を見つめる。
「そっか…。ナー姉ちゃん…やっぱり負けたんだ…。」
失意の中、小さく答える。
「ああ…。」
3章.『目標』

「で、ナー姉ちゃんはこれからどうするのさ?」
焚火を前に、座ったまま薪をくべる少年。
「分からない…。」
肩を落とし、少年と同じく焚火を前に座り込む。
焚火の中に、あの敗北の瞬間が蘇る…。
悔しさと惨めさから…涙が流れそうになった…。
が、少年の前でその弱味だけは決して見せまいと、懸命に堪える。
「ナー姉ちゃん…?」
堪えていた涙を悟られたのだろうか?少年が心配そうな眼差しを私に向ける。
悟られるのが嫌で、避けるように顔を背ける。
少年はその意図を察したのか、再び焚火に薪をくべる。
パチッ……。パチッ…パチッ……。パチッ……。
焚火の音だけが鳴る、長く…重い空気の時間…。
焚火を見つめる少年が、静かな口調で話す。
「あのね…死んだ父ちゃんはさ…機体のメカニックだったんだ。」

「父ちゃん、よく言ってたよ…。『俺は最高のメカニックになるんだ!』って!」
少年は小さな木の枝を手に取る。
「そんな父ちゃんの口癖がさ…『失敗を恐れるな!失敗の積み重ねからしか、本当の成功は生まれない!失敗を乗り越えた分だけ、人は強く大きくなる!』だったんだ…。」
少年は手に取った小枝で、土埃にまみれた廃ビルの床に何かを描きながら話を続ける。
「父ちゃんはね、オレが失敗した時…『くじけそうになったら…時間をかけたっていい…。だが、諦めるな!諦めた瞬間、失敗は本当の敗北になる!』って励ましてくれてたよ…。」
「失敗はさ、負けじゃないんだよ!…諦めたら…負けになっちゃうけど…。だからさ…諦めるなよ!!」
少年の言葉が胸に刺さる。
「君の…御父上は……立派な方だったんだな…。」
自分よりずっと困難で過酷な道を、諦めずに戦っている少年を前に…自らの小ささを知る。
その感情からか、両膝を深く抱え込んでしまう。
まだ…心にしこりはある…。
だが、これ以上…この少年を前に、情けなく弱音を吐く訳にはいかない!
今の自分に…出来る限りの笑みで…続けて伝える。
「ルー、ありがとう…。感謝するよ。」
その言葉に、ルーは笑顔で答える。
「ああ…!父ちゃんは自慢の父親さ!ナー姉ちゃんも父ちゃんの言葉、使っていいぜ!」
父親を誇らしく思っている少年の屈託のない笑顔。
それを見て…今度は、心から自然な笑みを浮かべる。
その時…ルーが床に描いていたものが見えた。
私のエンブレムだ。
そして気付く。

自らのエンブレムの…新しい意味を…!
そう。諦めない限り、失敗は…本当の意味での『敗北』でも『転落』でもないのだ。
なら私は…この失敗を乗り越えて、再び輝こう!!より一層の輝きを増して!!
ルーや御父上のように…勇気を与えて希望を照らす太陽のように!!
自らの戦闘スタイルと誇りを象徴したに過ぎなかったエンブレムのデザインに、沈んでも…再び昇って暗闇を照らす太陽の輝きを見つけた。
4章.『現状』

作業用マシンを戦闘兵器に転用した『MT』のような、寄せ集めの旧式のような、無骨な見慣れぬ機体と、取っ組み合いの格闘をするプロトエグゾス。
コックピットのスピーカーから声が聞こえる。
「どうだい、ナー姉ちゃん!オレ、大分腕が上がったろ?」
「ああ、正直…驚いたよ。」
驚いたと言えば、ルーのメカニックとしての腕前だ。
父との思い出を頼りに、独学で学んだと言うメカニックの技術。
おそらく相当…失敗を乗り越えて技術を習得したのだろう…。
御父上の言葉を支えにして…。
その証拠に…眼前にいる機体やプロトエグゾスの修理を、彼は一人でやってみせたのだから。
特に…彼の機体には畏れ入る。
瓦礫まみれの地面に散らばった機体の残骸から…使えそうなパーツを抜き取って、一から作り上げた機体だからだ。
いつかは…妹と一緒に本で見た、憧れの白い機体を再現したいとのことらしい。
ただ…残念ながら…大破したプロトエグゾスは、完全修復とは行かなかった。
彼の機体と同じく、機体の残骸から代用パーツを抜き取り修復したのだが…ジェネレータとブースタの破損は深刻だったのか、修理をしても出力が僅かしか機能せず…ブースタが使えない。


ルーの技術を持ってしても、原因が分からないらしい。
ブースタを使って空を飛ぶ事は出来ないが、それでも歩行動作や射撃動作、格闘動作が出来るようになったのだから…私はまだ戦える!!

後、私はこの世界について、色々とルーから話を聞いた。
惑星ルビコンの事。軍の事。様々な事を…。
とは言え、13歳の人影を避けて生きている戦争孤児の少年から得られる情報は乏しく…残念ながら軍についての詳細は分からない。
それでも、私にとっては収穫が大きかった。
ここは全く違う惑星だという事が分かっただけでも。
地球に戻りさえすれば、アイツへのリベンジのチャンスも得られる!!次は…必ず勝つ!!
しかし、気掛かりな事もある。
自爆しようとした瞬間…私が包まれたあの光。あれは何だったのか?
そして、アイツはあの光を免れる事が出来たのか?
だが今は…それを気にしていても仕方がない。
今はやれる事をやるだけだ。
自分に出来る最善を!
5章.『食事』

「ナー姉ちゃん、そろそろ飯にしようぜ。」
来た…この時間が…。
幼い頃から戦いに明け暮れていた私だが…なぜ料理の修行もして来なかったのか…。
夕日と瓦礫の山を背景に…本気で後悔する時間…。
それが食事の時間である。
ルーの料理…。
野草料理はまだ抵抗が少ないのだが…周辺にいる、恐らく爬虫類であろう生物の丸焼きは…最近ようやく尻尾が食べられるようになった程度だ。残りは申し訳ないが…ルーに食べてもらっている。
一応、好きな食材もある。
ルーがどこからか種を見つけて、廃ビルの隅で栽培している野菜達だ。その中でも、大事に育てている薔薇を使ったドレッシングの味には感動した。
ただ、栽培した野菜達は量が少ない為、残念ながらそれのみで空腹を満たす事は出来なかった。
特に薔薇については、ご家族の墓前に供える為に栽培しているものだから、貴重なパーツが見つかったお祝いの時くらいしか食べる事は出来なかった。
機体のブースタが修復出来たら…先ずは傭兵稼業を行い、収入を得る!
そして、ルーにまともな食糧を食べさせてあげる!
それが私の、目下最優先の目標である!!
「ナー姉ちゃん、今日はルビコンゴキブリの塩焼きだぜ!」
決意を固め、握った拳を見つめながら、無言で立ち尽くす私がいた…。
6章.『悪夢』

「本当に…父ちゃんも、母ちゃんも、妹のシロナも……みんな大好きだったんだ…。」
ご家族が眠るお墓を前に、遠い目で語るルー。
きっと…ご家族の事を思い出しているのだろう…。
ルーは涙を浮かべながら…抱きかかえている薔薇の花束を、ゆっくりと墓前へ供えた。
夕日が落ち、薄暗くなって来た…ご家族の命日…。
お墓参りを終えて…ルーのご家族の話を聞きながら…家に戻る帰路…。
悪夢は…起こる。

突如、鳴り響く警報音。
何事かと周囲を見回していた刹那…空を舞う1体の機体が視界をよぎる。
と同時に、その機体からミサイルが放たれる。
それは、戦っているMTをかすめ…眼前の瓦礫の山で爆発した。
爆風と共に飛散する、凶器と化した瓦礫。
そして…その内の一つが…運悪く、ルーの腹部を貫く。
致命傷だった…。
腹部から…血が……血が流れて行く…。
噓だ…。こんな…こんな事で…。

燃え盛る瓦礫の中…倒れたルーに何も出来ず…泣き崩れる私。
その私の手を…そっと触れるルー。
「泣かないで…。これで…やっと家族に逢えるんだ…。気掛かりなのは、ナー姉ちゃんだよ。料理…全然出来ないから。」
痛く苦しいだろうに、震えながらも精一杯の笑顔で私を案じる少年。
「ルー…。私は…私は…」
どうか諦めないで?…違う。復讐するんだろ?…違う。
こんな状態のルーに一体、どんな言葉を伝えたら…。
手を握りしめて、泣くだけしか出来ない私に…ルーが最後の言葉を振り絞る。
「ナー姉ちゃん、ありがとう…。好きだったよ…。」
返事を待たずして、笑みを浮かべたまま…事切れるルー。
「ルーーーー!!!!嫌だぁぁぁぁ!!!!…私も…お前の事が…大好きだ!!だから……頼む!!生きてくれーーー!!!!」
遅すぎた言葉。
泣き叫ぶも、もう…その言葉は届かない。
「ルーーーーーー!!!!」
溢れ出る思い出と、言葉を伝えられなかった後悔。
ルーの胸元で、ただただ号泣する。
警報音も戦争の跳弾も関係ない。
いっそのこと、このままルーと共に逝きたかった。
全てを諦めて…。
7章.『出撃』

残された生命の全てを…涙に変えて……終えてしまいたい…。
そう咽び泣いていた時だった…。
あの…忌々しい音が…また聞こえた。
ミサイルの爆発音だ!!!!
「ゆ…許さない!!!!」
涙で崩れ、生きる事を放棄していた身体に…怒りという名の炎が宿る。

涙を拭いもせず、翼をもがれたプロトエグゾスのコックピットに全力で駆け込む。
「ルー…。お前の仇は…私が取る!!!!」
唯一残された武器であるガトリングガンを片手に、ルーの復讐を誓い…出撃する。
8章.『咆哮』

ブースタが使えない、走るだけしか出来ない機体が…ようやく戦地へと辿り着く。
だが…あのミサイルを放った因縁の機体は、こちらを見る事無く飛び去って行ってしまった。
「逃げるなーーーー!!!!私と戦えーーーーー!!!!」
涙を流して、力の限り声を上げ叫ぶ私。
それに反応したのは、奴と戦っていた雑兵共だった。
「なんだ?アイツの仲間か?」
MT共の指揮官が声を上げる。
「撃て!!こいつだけでも仕留めるんだ!!」
奴から、ターゲットをこちらに変えて襲ってくるMT共。
「貴様らがアイツと揉めたせいで…!!」
状況と激情に流されるまま、憎きもう片方の仇共を相手に応戦する。

MT共の予測射撃を、左右フェイントを織り交ぜた歩行動作で回避。
怒りに任せ、ガトリングガンを仇共に撃ち込んで行く!!
ガガガガガガガガ!!
次々倒れて行くMT。
「いける…!!」
そう思った矢先、唸りを上げていたガトリングガンの咆哮が止まる。
「どうしたんだ!!プロトエグゾス!?」
9章.『閃光』

カチッ…カチッ…!!
武器が反応しない。
モニターに映し出される『エラー』の文字。
「撃って…来ない…?」
「奴は…撃てないぞ!!」
「今だー!!やれーーーー!!!!」
「残念だったなあ!!」
「ハーッハッハー!!ざまーみやがれ!!」
ガガガガガガガガ!!!!
集中砲火で唸りを上げる凶弾の音。
「こんな…!こんなところで…!!」
因縁の機体は…私達の事を何も知りもしないまま…飛び去って行ってしまった。
そして…私は翼をもがれ…今度は武器まで無くした。
雑兵共に…もはや撃たれるだけとなったプロトエグゾス。
運命は一体どこまで私を弄ぶのか…!!
「こんなところで…!!こんなところで私は…!!」
「大切な人を失ったままで…!!何も出来ないままで…!!」
悔し涙が込み上げる。
ならば…せめて一太刀でも浴びせる!!
「ウオオオォォォォォォォォォッッッ!!」
あの時のように…死を覚悟して…自爆による特攻をしようと愚直な突進をする私。
凶弾を浴び、機体が悲鳴を上げる。
右脚が破壊される。
両手で地を這って歩く。
左腕が壊される。
残った右腕で、何とか顔だけを上げ…最後に仇共を睨み付ける。
「すまない…ルー。今、そっちに行くよ…。」
自爆ボタンを押そうとした時だった。
紅い光の粒子が目の前をよぎる。
「諦めないで!!ナー姉ちゃん!!」
一瞬、自分の耳を疑う。だが、確かにそう聞こえた!!
そして…紅い光の粒子は、モニターの前に集まり…強く大きく輝きを増して行く!!!!
「な、何が…!?」

その紅い光が放つあまりの眩しさに、操縦レバーから両手を離し、両手で光を遮りながら、瞼を閉じる。
「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
眩しさが収まったのを感じ取り、瞼を開けると…雑兵共は全滅していた。
「一体…何が…!?」
10章.『旅立ち』

数日後…。
ルーが大切に栽培していた薔薇達を、ニつの束にして抱きかかえ…墓前へと向かう。
その薔薇の束の一つを…ルーやご家族が眠る墓標に供える。
「機体は何とか直ったよ。ルーが色々と教えてくれたお陰だな。」
小さな笑みを浮かべ、墓標に話しかける。
「あー!何やってんだよ!ナー姉ちゃん!!」
「す、すまない。」
ルーに怒られながらメカニック技術を学んでいた日々の記憶が蘇る。
「楽しかったよ…ありがとう…。」
優しく墓標を見つめる。
「そうそう…あの日以来、不思議な事が起こってるんだ…。修理しても殆ど機能しなかったジェネレータやブースタが直ってね。また飛べるようになったよ。」
「ブースタの噴射光まで、紅い光に変わったっていう…おまけ付きでね…。紅い光の粒子の…お陰だろうね…。」
「ルーの…魂なのかな…?」
そう信じたかった…。

もう一つの薔薇の束を、プロトエグゾスのコアの先端横に供え付ける。
『プロトエグゾス、あの子の為に力を貸して』と、機体に願いを書きながら…。
そして、機体の呼び名を改める。
ルーの魂が機体に宿ったと信じて…『プロトエグゾス ルージュ』と…。
終章.

酒場にて…。
窓際の席に座ると、一杯の水が出される。
「ご注文が決まりましたら、お呼び下さい。」
そう告げて、去って行く給仕。
品書きを見ながら、水を飲む。
「美味しい…。」
「ルーにも…飲ませてあげたかった…。」
ルーの笑顔を思い出しながら、澄んだ水が入っているグラスを見つめる。
隣の席から噂話が聞こえる。
「新入り、知ってるか?アークの女帝を。」
「知らないです。何ですかアークの女帝って?」
「最近の傭兵界隈じゃ持ちきりの話さ。何でもそいつは…」
噂話を聞き流して、グラスの中身を飲み干す。
「アークの女帝…か…。」
空になったグラスを握りしめる。
「許さない…奴だけは!!」
あの…因縁の機体の姿を思い浮かべる。

店に入る前に、タレ込み屋から得た情報。
あの日…ルーを殺したあの機体は、『借り物の翼』で羽撃く独立傭兵だという。
「偽の…レイヴン…。」

かつて自分が『RAVEN’S ARK.(レイヴンズアーク)』と呼ばれるレイヴン派遣組織で、アークの女帝…『ナインブレイカー(『9』を打ち破る者)』として、違反者達を粛正していた過去を思い出す。
そして…遠く離れたこの地でも…『アークの女帝』を名乗り…ルーの仇を粛清している事も。
奇しくも…偽の翼で羽撃く、因縁の機体のパイロット名は『621』…。
因縁の『9』を彷彿とさせる名前だ。
「これも…何かの因果…かもしれないな…。」
再び『621』の戦う姿を眼裏に浮かべる。
「待っていろ…『621』!!私とルーの…二人の翼で…お前を撃つ!!」

「あの時…紅い光の粒子がくれた新しい力…紅い閃光…アサルトアーマーで!!」
酒場を後に、空を見上げる。
「ザイレム…か…。」
あの日、あの場所にいた…惑星封鎖機構…ルビコン解放戦線…偽の翼…。
奴らが今…集おうとしている場所…。

無人洋上都市『ザイレム』。
そこで…全てが!!
「行こう…ルージュ!!」
決戦の地へ…紅い光の粒子を纏いながら、『プロトエグゾス ルージュ』は飛び立つのだった…。

文 / ゲーム星人インスピレータ
画像・吹き出し文 /GAME星人BLOG編集部
アーマードコアⅥ、プロトエグゾスの再現機体完成記念に執筆してみたアークの女帝イツァム・ナーの短編小説、いかがだったでしょうか?
言わずと知れたアーマードコアⅥの主人公『621』。
『プロトエグゾス ルージュ』は、その最大の敵として描いてみました。
『621』として、ゲームを遊ばれている皆様が、普段と違う一風変わった視点で、この小説を楽しんで頂けたなら、非常に幸いに存じます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ルーってなんか意味のある言葉なんですか?
実は、ケルト神話の光の神ルーと、コーラルの紅いアサルトアーマーを掛けて、ルージュと命名しました。
妹のシロナもケルト神話の女神の名前ですね。
あと、これはアーマードコアⅥのネタバレになっちゃいますけど、、、
↓↓↓↓
(※ネタバレ注意)
紅い光の粒子(コーラル)は、死んだ人の魂が溶け込んで出来た、人の意識を保存出来る、『意志を持つ知的生体物質』なんですよね。
集積すると意識共有ネットワークとして機能します。
そんなコーラルは、旧世代型強化人間を作る為の素材でもあり、機械に憑依して、星系を越えて拡散する能力を持ちます。
オマケに時間軸にも干渉して、主人公をタイムスリップまでさせたりします。
素敵な設定だと思いました。
Japan Sci-Fi 【SF解説・創作】様のYouTube動画『アーマードコア6「賽は投げられた」EDの意味がわかると怖すぎる…27の重大伏線と最後のシーンの意味|アーマードコアフロム脳解説考察|ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON』は、色々な設定がとても分かり易く説明されていますので、本当にオススメです。
本当に壮絶なネタバレwww
もう一個、今度はこの小説についてネタバレしちゃうと、いつか、、、
ルージュやシロナが憧れた白い機体の短編小説もしちゃうかも知れません。
需要とモチベーションがあればですが(笑)
僕は読んでみたいっすね!
楽しみにしてます!
嬉し泣き+感謝の土下座!!
はじめまして!!
コメント失礼します。
短編小説、拝見させて頂きました!
いやぁ~とても読みやすく
まとめ方も素晴らしいと思いました。
自分は、アーマードコア自体聞いたことはあるものの
プレイしたこともありませんでしたので
このような世界線なんだなと、とても参考になりました。
そして、まさかの主人公とは逆の視点だったというw
いずれにしても、興味をもつきっかけになりましたので
感謝いたします!!
続編も気になりますので、モチベーションが
あるときにでもよろしければ、上げていただきたいと
思いますw
とても嬉しいメッセージありがとうございます(*´▽`*)
本当に、本当に嬉しいです♪土下座
そうなんですよ(笑)
最後に、おい!自分(プレイヤー)がイツァム・ナーの仇かい!みたいなオチにしてみました(笑)
アーマードコアⅥは神ゲーで、超オススメですので、是非是非遊んでみて下さいませ(*´▽`*)
頂いたメッセージを励みに、頑張らせて頂きますね♪
素敵なメッセージをありがとうございました(*´▽`*)土下座
ちょうどアーマードコア最近始めたところだったので気になって読ませていただきました!
読みやすくて、あっという間に終わっちゃいましたね。
主人公以外のキャラクターにもそれぞれの物語があるはずだよな〜
と、考えるとゲーム自体も更に楽しめそうです!
ありがとうございました!
続きはあるのかなぁ
とても嬉しいメッセージありがとうございます(*´▽`*)
本当に、本当にモチベーションになります(感動泣き)
そうなんですよね!!
今、ネットで話題になっている『大豊娘娘』はじめ、企業もキャラクターも魅力的で、AC6は本当に素晴しいゲームです(笑)(*´▽`*)
ワタクシこそ嬉しい素敵なコメントありがとうございました(*´▽`*)土下座
また頑張らせて頂きますねp(*´▽`*)♪